特許 令和6年(ネ)第10012号「携帯電話、Rバッジ、受信装置」(知的財産高等裁判所 令和7年7月10日)
【事件概要】
サブコンビネーション発明(二以上の装置を組み合わせてなる全体装置の発明(コンビネーション)に対し、組み合わされる各装置の発明)に基づく特許権侵害の主張が、特許無効の抗弁の採用により退けられた事例
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【争点】
「請求項4記載の携帯電話との間で送受信するためのRFIDインターフェースを有する受信装置」を対象とする訂正発明5において、「『前記選択した1つの新たな機能に対応する個別情報』の発信要求を…携帯電話に送信する」という発明特定事項中の「前記選択した1つの新たな機能に対応する個別情報」という記載が、受信装置側の構成・機能を特定したものといえるか(注:「新たな機能の選択」は、請求項4で、携帯電話側で行われるものとされている。)。
【結論】
本件訂正発明5における「請求項に係るサブコンビネーション」(受信装置)の発明の認定に当たっては、「他のサブコンビネーション」(請求項4記載の携帯電話)に関する事項も検討対象とするべきであるが、その構造、機能、形状、組成、作用、性質、特性、用途等(以下「構造、機能等」という。)の観点から検討した上で、当該他のサブコンビネーションに関する事項が、当該他のサブコンビネーションのみを特定する事項であって、請求項に係るサブコンビネーションの構造、機能等を特定しない場合には、当該他のサブコンビネーションに関する事項は当該請求項に係るサブコンビネーションを特定するためには意味を有しないものとして、本件訂正発明5の要旨を認定するのが相当である。…
本件訂正発明5における「前記選択した1つの新たな機能に対応する個別情報」については、…、携帯端末において新たなカード機能を選択することの記載はあるが、受信装置において、これに対応する機能を選択することなどの記載はない。本件訂正後の本件明細書にも、受信装置が「前記選択した1つの新たな機能に対応する個別情報の発信要求」をする旨記載されているだけで、受信装置が発信要求をするに当たり、携帯端末における選択との対応関係を確認したり、携帯端末における選択と連動するような受信装置における選択を行ったりする等の技術の説明はされていない。また、受信装置が携帯端末から受信した個別情報について個別情報システム上必要な所定の処理を行う場合にも、本件明細書上、受信装置は、当該個別情報が「要求した個別情報」であるか否かについて判断するだけで、当該個別情報が携帯端末において選択した機能に対応する個別情報であるか否かを判断する旨の記載は見当たらない。
そうすると、本件訂正発明5における「前記選択した1つの新たな機能に対応する個別情報」は、携帯電話における構成、機能等を特定し、受信装置に受信される個別情報が携帯電話側において特定されるものであることを述べたものにすぎず、受信装置における構成、機能等を特定する記載とはいえない。したがって、「受信装置」に関する発明である本件訂正発明5において、「前記選択した1つの新たな機能に対応する個別情報」は、単に「個別情報」とするものと技術的には異ならないものというべきである。
【コメント】
本件では、上記のように、本件訂正発明5における「他のサブコンビネーション」についての記載は「請求項に係るサブコンビネーションの構造、機能等」を特定しないと判断され、結果として、請求項に係るサブコンビネーションの発明の進歩性が否定され、特許無効の抗弁が認められた。
原告(控訴人)らは、「本件訂正後の請求項4の携帯電話に関する事項(複数の新たな機能の中から1つが選択され得る)は、当該装置のみを特定する事項ではなく、本件訂正発明5に係る「受信装置」の発明の構造、機能等(当該受信装置に設けられた読み取りスイッチの押下によって、前記選択した1つの新たな機能に対応する個別情報の発信要求を当該受信装置に近づけられた前記携帯電話に発信する発信手段)を特定するものといえる。」旨主張したが、採用されなかった。
本件における本件訂正発明5の認定は、特許・実用新案審査基準の「第III部第2章第4節 特定の表現を有する請求項等についての取扱い」の「4.サブコンビネーションの発明を『他のサブコンビネーション』に関する事項を用いて特定しようとする記載がある場合」の欄の考え方に沿ったものといえ、妥当に思われる。
各サブコンビネーション発明の実施主体が相互に異なる場合もあり得ること、サブコンビネーション発明の技術的範囲は全体装置の発明(コンビネーション)よりも広いと考えられること、等を考慮すると、サブコンビネーション発明を請求項に記載しておくことは有効な戦略と考えられるが、装置全体の発明(コンビネーション)には新規性・進歩性が認められる場合であっても、そのサブコンビネーションの発明には新規性、進歩性が認められない場合があることには留意が必要である。サブコンビネーションの構成だけで進歩性が認められるかが微妙な場合には、間接侵害に基づく権利行使も視野に入れ、全体装置の発明(コンビネーション)も請求項に記載しておくことが望ましいと考えられる。